胃がん、大腸がん、食道がん、前立腺がん
ニンニクを食べるほど、がんになりにくいことがはっきりしてきた。調理・加工されるうちにニンニクの成分が予防物質に変わるためだ。例えば、ニンニク類10グラムが前立腺がんのリスクを半減させるという。他のがんでも効果があると期待され、確認の研究が進んでいる。 |
にんにくの前立腺がんに対する予防効果を確認したのは米国がん研究所(NCI)で、昨年11月の同研究所内の報告書で発表されている。
研究は中国の上海で行われた。前立腺がんになった男性238人と、彼らと年齢などを一致させた健康な男性471人の食生活などを分析して、発がんの原因を探る症例対照研究の結果だ。
それによると、ニンニクを中心にしたネギ類をたくさん食べている人ほど、前立腺がんになりにくく、その効果を計算すると、ニンニク類10グラムの摂取によって、前立腺がんになるリスクが半減していたという。
ニンニク抽出液を主成分にした滋養強壮剤を販売している湧永製薬ヘルスケア研究所製品第三研究室の許栄海室長は、
「動物実験では、多くのがんに効果があることがわかっています。また、疫学的な研究で大腸がん、胃がん、食道がんにたいする予防効果が確認されています」
と、ニンニクの効用を説く。
では、ニンニクに含まれているどんな成分にがん予防効果があるのだろうか。
ここで注意しなければならないことは、まるごとの生ニンニクには有効成分があまり含まれていないことだ。すりつぶしたり、焼いたり、炒めたりするなどの
調理の過程、ニンニク酒などように水性アルコール中で抽出したりする間に酵素の作用などで有効成分に変わるのだ。
ネズミなどの動物を使って、このような調理・加工後の成分の有効性が精力的に調べられている。
このうち、水に溶ける代表的な成分の一つに、S−アリルシステインといわれるものがあり、その効果を調べた次のような実験がある。
大腸がんになるように発がん物質を与えたネズミ90匹を30匹づつ三グループに分けて、一つは普通の餌で飼い、次のグループは体重1キロあたり1日に200ミリグラムのS−アリルシステインを与えて、25週にわたって観察を続けた。
結果は、S−アリルシステインを与えなかったグループでは29匹が大腸がんになったのに対し、200ミリグラムのグループで12匹、400ミリグラムのグループでは8匹しか大腸がんにならなかった。
同じような実験が、さまざまな成分で行われ、皮膚がん、胃がん、肺がん、乳がん、食道がん、肝臓ガンで予防効果が確認されている。
「水性アルコール中で熟成させた有効成分の抽出液、平たくいえば一種のニンニク酒が最も効果があるようです。いろいろな成分が助け合って、発がん物質がDNAを阻害するのを阻止したり、体内から発がん物質を排出させたりしていると考えられています。それに加えて、免疫力を強める作用も発ガン防止に働いています」(許室長)
もっともこのような動物実験は、強力な発がん物質をあたえたうえで、大量のニンニク抽出液による発がん予防効果をみているので、ふだんの食生活とかけ離れたものになってしまう。本当にニンニクががん予防になっているかどうかは、冒頭の上海での調査のように、ニンニクをたくさん取っていると、がん予防になることを示さなければならない。
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ニンニクの多食
胃がん60%減少
このような例として、NCIと中国の北京がん研究所が共同で、山東省の胃がん患者685人と胃がんでない1131人の食生活を調べた結果がある。それによると、ニンニクなどのネギ類を多く食べている人は、ほとんど食べていない人より胃がんになる割合が60%も減少していた。またイタリアでも同様の調査で、胃がんを予防できるとの結果が出されている。 |
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さらに最近になって、中国の江蘇省での調査で、食道がんの予防効果があることもわかってきた。
また、米国アイオワ州の女性約4万2千人を対象に、あらかじめ食生活を調べておき5年間追跡調査した、より信頼性の高い調査(前向きコホート研究)でも、ニンニクを週1回以上食べている人は、まったく食べていない人と比べて、大腸がんになるリスクが半減していたという。
ただしニンニク摂取が予防になっていないという報告もある。オランダで乳がん、肺がんについて行われた前向きコホート研究では、ニンニク類の摂取と発がんには関係が認められなかった。
では、本当のところ、ニンニクにがん予防効果があるのだろうか。
その点をさらにはっきりさせるために、NCIが中心になり、胃がん多発地帯の中国山東省の3411人を三グループにわけて94年から10年間追跡し、胃がん発症の有無を調べるという大掛かりな介入研究が進んでいる。
3グループの内訳は、そのままの食生活を続けてもらう対照群、ニンニクの水性アルコール抽出液などを摂取してもらう群、ビタミンCやEなどを摂取してもらう群となっている。
「ニンニク抽出液などの摂取は8年間で、すでに終了していて、後2年ほど観察して結果が出されます。研究が続行しているところをみると、
『ニンニク抽出液が胃がん予防に有効』となるのではないかと期待しています」(前出の許室長)
がん治療は苦しく、費用もかかる。当然、予防が第一だ。緑黄色野菜をたっぷり含んだバランスのとれた食事をして、禁煙を実行するなどといった生活を心がけること大切だが、特にリスクの高い人では一歩進めてニンニク抽出液などを含めた化学的予防物質を積極的に摂取するような時代が迫っている。
京都府立医科大学の西野輔翼教授(生化学)は、こう言う。
「発がんを分子レベルで特異的にブロックする分子標的科学予防を目標として、合成、天然を問わず、多くの物質の開発が進んでいます。植物が作り出しているカロテノイドといわれる一群の物質がありますが、ウイルス性肝硬変の患者さんに数種類のカロテノイドを一緒に飲んでもらったところ、肝がんに移行する割合が飲まなかった患者さんと比べて少なくなることが、はっきりわかりました」
他にもがん予防物質として注目されているのは、身近な食品ではカレーに含まれるクルクミン、りんごのアップルペクチン、天然物としてはカルコンやアントシアニンなどの植物色素だ。
また、合成化学物質では、乳がん予防薬(タモキシフェン)や大腸がん予防薬(リウマチ治療などに使われる非ステロイド系抗炎症薬の一部)が米国で認可されている。
国内でも肝がんの再発予防薬として、岐阜大学の武藤泰敏教授らによるビタミンAの誘導体(非環式レチノイド)の開発が進んでいて、臨床試験では再発が3分の1以下に抑えられている。
「がん予防になるさまざまなタイプの物質が実用化されると思います。それらを組み合わせて、個人に合ったテーラーメイドの予防法を提案できる時代がくるでしょう」(西野教授)
本誌・笠本進一
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